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集中連載1 「加速する医療・薬業系ITイノベーション」~医療環境を覆うメガトレンドの波、私たちはどうなる?

2016年09月12日 15:26 by the_ujin
2016年09月12日 15:26 by the_ujin

医療環境を覆うメガトレンドの波、私たちはどうなる?
ヘルスケアコンサルティング 研究員  the_ujin


みなさんは「Join」と聞いて何を想像するでしょう?

インターネットで検索してみますと、トップには「ニッポン移住・交流ナビ Join」が出てきます。

「HAL」はどうでしょう?

約半世紀前に公開された、スタンリー・キューブリック監督の映画『2001年宇宙の旅』で登場する人工知能が有名です。しかし、今年のヘルスケアのエリアでは、「Join」と言えばアプリ、「HAL」と言えばロボットスーツではないでしょうか。

「Join」はアルム社が開発した、医師間で診断用コンピューター画像を共有できるアプリ。「HAL」はサイバーダイン社が開発した、下肢部へ装着する歩行支援機器です。

2016年、この2つは医療保険適用対象となり、「Join」はソフトウェアで初、そして「HAL」が「ダヴィンチ」に続きロボット治療機器2例目として、それぞれ国内で承認されました。

個人的には、この事象はとても大きな意味を持っていると思っています。それは、アプリやロボットが、"医療上必要なサービス”として国が保証することを認めた。また、クスリ同様に科学的根拠をもって医療に対する有用性を認めたということだからです。

この流れは、アプリをはじめ情報通信技術(ICT)やロボットなどのテクノロジーの急伸、産業構造の転換と言う世界規模のメガトレンドが、日本の医療環境を始め医療従事者の役割や職能にも確実に変化を及ぼすことになると思っています。

このコラムでは、テクノロジーの進化・普及と共に激変する環境が、これからの医療にどのような影響を及ぼすのか、その結果、医療のステークホルダーにどのようなものが求められるようになるのかを考察してみたいと思います。

ここ数年、世界の大手エレクトロニクス企業の老舗は、これまでの主要事業を縮小・売却して事業エリアを撤退し、異なるエリアへとシフトし始めています。

コンパクトディスクを開発したフィリップスは、今年になってテレビや音響機器を売却。医療機器を残し「総合ヘルスケア企業」として大きく事業のポートフォリオをシフトすることを発表しました。

同じくオーディオヴィジュアル機器で成長してきたソニーは、2014年にテレビ事業を、2015年にビデオ&サウンド事業を分社化、PC事業は"VAIO”ブランドごと売却し、映像技術をヘルスケアへシフトさせ、電子お薬手帳と言う新たなサービスも開発しました。

IBMは(ちなみに『2001年宇宙の旅』のHALの名称は、IBMから一文字ずらしていることは有名です)その名前が示す通り、International Business Machines Corporationとして企業のコンピューターなどハードウェア事業が起源でした。

2003年にハードディスク部門を日立製作所へ売却、2005年にはノート型PC"ThinkPad”をブランドごと中国企業へ売却し、21世紀早々にソリューションサービス企業へと事業をシフトさせました。今では人口知能Watsonでヘルスケアにおける存在感を高めています。

2014年、同社は米国ベイラー医科大学と共同で、Watsonを使って、プロテインキナーゼp53に関連する約7万件の論文をわずか2カ月でレビューし、未知のがん抑制遺伝子を7つ発見したことを発表しました。

同大学の研究責任者兼教授であるOlivier Lichtarge(オリビエ・リヒタルジ)博士は「「1人の科学者が読む研究論文数は、いい時で1日平均1~5本程度でしょう。p53に関して言えば、7万を超える論文が公開されています。私が論文を1日に5本読むとしても、現在入手できるこのたんぱく質に関するすべての研究を完全に理解しようとすると38年近くかかるでしょう。」と述べています。
Watsonは、ヒトのワークロードを200倍以上短縮させ、成果も出したことになります。

Johnson & JohnsonやSanofiなど製薬会社でも、数多くの文献レビューにWatsonを活用し、既存薬の潜在的有効性の探索に着手しています(IBMホームページより)。スパコンを活用した有効成分の探索が最先端だった時代はAIにとって代わろうとしているわけです。

エレクトロニクス機器を主軸に事業を発展させてきた企業は、次々にこれまでの看板商品を離脱させ、日進月歩で進化するテクロノジーでヘルスケアへ参入してきています。

一方、製薬業界も変わりつつあります。「デジタルメディスン」「スマートピル」に代表される、IoT版のクスリの登場です。

IoTはInternet of Thingsの略で、モノとインターネットが繋がり、常時サービスの最適化を図る概念を指します。そのテクノロジーは、モノと見立てたクスリにも応用され始めています。最近ではインターネットが接続された次世代のクルマ、コネクテッド・カーなどが有名ですね。

コネクテッド・カーは、GPSから収集される位置や速度情報の「プローブデータ」や、車間距離センサー、ドライバーモニタリングセンサ、ステアリング舵角センサー、スピードセンサなどから膨大なデータが収集されます。これらのデータと位置情報や速度やブレーキ、車両コンディション、走行データ、路面状況などのデータを活用することで、クルマの走行支援、車両診断、渋滞緩和や交通管理、危険予知や交通事故削減、保険サービスなどへの活用による新たな市場創造が期待されています(iot-jp.com より)。

一方、クスリの方では、日本でも大塚製薬のエビリファイが他社開発のマイクロチップを搭載した錠剤を発表することになり、話題になりました。

この錠剤に貼付するシリコン製マイクロチップは、米国Proteus Digital Health社が開発しました。錠剤を服用するとセンサーがシグナルを発し、患者さんの体表面に貼り付けたパッチ型の小型検出器でシグナルを検出します。体に貼付するパッチ型の検出器は、患者さんが何時に薬を飲んだかなどの服薬データだけでなく、活動量(歩数)など様々なデータを検出することが可能です。

集めたデータはスマートフォンやタブレット端末などに転送され、患者さんの同意のもと医師や看護師などの医療従事者に情報提供が可能です。この情報を元に、医療従事者や介護者が患者さんにより適した治療法を選定し、その結果として患者さんの服薬アドヒアランスを向上させることが期待できます(大塚製薬のホームページより引用)。

クスリだけでなく、製薬企業の事業自体にも少しずつ変化が見えています。本来の製薬事業に、付加価値をもたらすデジタルイノベーションの探索を開始しているのです。

Bayerは"Grants4Apps Japan”と称し、同社のビジネスにデジタルツール(ビッグデータ分析・ソフトウェア開発)を活用したソリューションを公募して、新規ビジネスの発掘と育成に取り組み始めています。

MSDはグロービスと組んで、優良なテクノロジーの新規事業に対し、同社保有のヘルスケアビジネスのノウハウを無償提供する「ヘルステックプログラム」を開始しました。

国内最大手の武田薬品工業、第一三共もディー・エヌ・エー(DeNA)と共同でデジタルヘルス分野のビジネスや投資機会の創出を目的とした、製薬・テクノロジー・投資会社の交流イベント「D2T Meetup -Digital Health-」を開催しました。

大塚製薬に至っては、IBMと合弁会社「大塚デジタルヘルス株式会社」を設立しました。大塚製薬の医薬品事業から全く独立させた会社です。ここの事業は、Watsonを使って精神科領域の電子カルテを解析し、医療従事者向け診断・治療支援サービスを提供します。

これまで製薬企業は、同業他社の買収・提携で「新規有効成分」の獲得を図って事業を拡大してきました。しかしこの流れは、テクノロジーを主とする異業他社との提携だけでなく、事業の発掘・育成でデジタルイノベーションの事業拡大を図っており、さながら製薬会社が創薬ではなく、IoT、人工知能をはじめテクノロジーの領域に活路を見出そうとしているようです。

30年ほど前、コンピューターや携帯電話は個人レベルの所有まで普及しておらず、「持ち運びは不便」「会社に何台」と言う感じでした。今では会社だけでなく、個人レベルのコミュニケーションでさえ、デジタルの通信環境が前提として成立しており、PCや通信端末を「持っていない」「知らない」「わからない」ではすまされない時代です。

デジタルネイティブは1990年以降に生まれた世代を指します。生まれたときからPC、インターネットが身近にあった世代です。今では、まだ会話も習得していない幼児が、端末の画面をタップ、フリック、ピンチイン・アウトをします。入学時にタブレット購入を義務付けている高校もあります。彼らこそ、これからの日本を担っていく世代です。

私たちの暮らしの中に間違いなく、IoT、人工知能、ロボットが個人レベルまで急速に浸透してきますが、その時医療環境はどうなるのでしょう。テクノロジーと問診、検査、診断、治療との一体化が普及するようになり、医療従事者はどのように対応していくのか、少し戸惑ってしまいますね。

「Join」や「HAL」に続いて、スマートピル、アプリやロボットと続々とテクノロジーが保険適応の対象となってきます。これからの診療報酬はどうなるのか? テクノロジーとクスリを併用しても安全性に全く問題はないのか? 診断や治療の責任の所在はどうなるのか? 医療に対する有用性評価はどのような基準になるのか? 医療者の教育カリキュラムやキャリア開発はどうなるのか? テクノロジーの世界標準は? などの課題はそれほど遠い先の話ではないように思います。



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