前回は、インターフェックスで展示された最新の包装技術について触れましたが、今号では医薬品製剤の包装事情について詳細を説明します。特に今回は、患者さんや薬剤師さんに馴染みが深いPTP包装についてお話し致します。
PTP包装とは、プラスチックシートとアルミ箔で挟んでシート状にした包装のことであり、プラスチックを押すことによって中身が取り出せる(press through package)包装のことです。
このプラスチックという材質には多種あり、またそれぞれに特徴があるので、製剤研究者は各々の特徴を利用してPTP包装の材質を決定しています。つまり、PTP包装の材質から医薬品の性質が垣間見えるということです。
まずは、汎用性の高いPTPシートの材質から順に説明します。
さとうきび畑
① PVC(ポリ塩化ビニル) : 成型性(錠剤ポケットの形へのしやすさ)が優れており、安価なため比較的採用されやすい。製剤の安定性に特段の問題がなければ、第一選択のシート材質になる。
② PP(ポリプロピレン): 防湿性がPVCより優れているため、吸湿性がある固形製剤(口腔内崩壊錠など)や湿度により不安定となる製剤に採用されやすい。安定性を担保できるが、PVCよりも成型性が悪く、成型条件が厳しいという欠点がある。
③ PVDC(ポリ塩化ビニリデン) : PPよりもさらに防湿性を強化した材質。防湿性は担保できるが、高価であるため製造コストがかかる。また、PVDCだけでは成型性に劣るため、PVCやPPと層状になっており、シートが分厚くなるため押し出しに力が必要なことがある。
④ PCTFE(ポリクロロトリフロロエチレン) : フッ素樹脂の一種であり、防湿性に優れる。PVDC同様、PCTFEだけでは成型性に劣るため、PVCやPPと層状になっており、シートが分厚くなるため押し出しに力が必要なことがある。やはり高価である。
⑤ 両面アルミシート : 防湿面や遮光面など製剤安定性の担保としては、最も強力と言える。しかし「中の錠剤を目視することができない」こと、「専用の包装装置を使用するのでコストがかかる」などデメリットが多く、最終手段といった印象である。例『カデュエット』『ビシフロール』。
その他に、上記材質をアレンジした特徴あるシートもある。
⑥ 遮光シート : 自然光などにより変色や含量低下、類縁物質の増加等が起こる製剤に採用される。紫外線吸収剤がシートに配合されているものや着色剤が配合させているものがあり、吸収波長の違いにより色が付いているもの、透明なものがある。例『キプレス』『シングレア』。
⑦ 防臭シート : シートに防臭剤が配合されており、臭いがある製剤に脱臭目的で採用される。例『オルメテック』
この他にも、PTP誤飲事故のために、万が一服用しても大丈夫な包装シートや環境に配慮したサトウキビ由来ポリエチレンというシートも開発がされています。
以上が、代表的なPTPシート材質の特徴です。
また、PTPシートの束をアルミ包装でカバーしたり乾燥剤を入れたりしているのは、製剤の安定性を担保するためです。つまり、そういった医薬品は、水分による影響を受ける可能性があり一包化に注意が必要な製剤かもしません。
各医薬品のインタビューフォームを調べて頂ければ、その医薬品で使用されているPTPシートの材質を簡単に知ることができます。PTPシートの材質からその製剤の特徴(湿度に弱い、光に弱いなど)がある程度推測することができます。
製薬会社が製品販売後にPTPシートの材質を変更するのは、「最終包装での製剤の安定性が確認できたため」「PTPシートから押し出しやすくするため」などという理由によるもので、より最適なPTPシートを選択したためです。
PTPシートの材質は、ジェネリック医薬品を採用する際にも有益となる情報と考えます。製剤の安定性の違いにより異なるシート材質を使っている場合もあるので、採用する際の1つの参考となれば幸いです。
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