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現地レポート「八事日赤の院外処方せんについて」

2016年09月30日 18:29 by sakamaki_hiroyuki
2016年09月30日 18:29 by sakamaki_hiroyuki

八事日赤が院外処方せんを出すようになって......ひさしぶりに八事に帰ってみました

名古屋第一赤十字病院

名古屋には2つの日赤病院がある。

1つ目は名古屋市中村区にある昭和12(1937)年開設の第一赤十字病院で、通称「中村日赤」である。2つ目が昭和区にある第二赤十字病院、「八事日赤」である。

両病院とも、原則的に院外処方せんを出していなかったが、中村日赤は平成25年5月から、八事日赤は本年(28年)7月から院外処方せんが出されるようになった(平成28年6月から試行的実施)。

中村日赤が院外処方せんを発行するようになって、病院玄関前には当時(平成25年9月撮影)10軒の薬局が出店した。

よく、大病院前の薬局乱立を称して「調剤薬局銀座」などといわれるが、写真に見るように薬局だけ10軒連なっている風景も珍しいのではないだろうか。

写真1 名古屋第一赤十字病院(中村日赤)正面

 

写真2 中村日赤前の「調剤薬局銀座」(平成25年9月撮影)

✳ 当時10軒の薬局が連なる(1軒新たな店舗が工事中、その後、地下鉄「中村日赤駅」構内にも1軒出店)。薬局以外の店舗はなく、地域住民にとって商店街として魅力はあるのか?

薬局間の「競合」が激しく、スピード調剤や無料宅配を「売り」にしてるが、薬局や薬剤師機能の競争は見えない。

 

名古屋第一赤十字病院

歴史的には、八事日赤の方が古く、大正3(1914)年に日本赤十字社愛知県支部八事療養所として開設されたものである。

八事は、筆者の前任地である名城大学薬学部もあり、名古屋では高級住宅地といわれている。そのため、うわさではあるが、中村日赤に比べ、金持ちの患者が多い八事日赤では使われる薬も違い、高価な医薬品が好まれるなどとも言われる(事実を確認したわけではない。都市伝説かもしれない)。

上記のように八事日赤は、本年7月から本格的に院外処方せんを発行するようになった。

当初から、いずれ八事日赤も院外処方せんを出すようになるであろうとのうわさはあり、病院周辺には、空き地やマンション一階の空き室などが目立つ場所であった。これが、院外処方せんが発行されるようになって新たに7薬局が開設され(さらに1薬局が建設中)、結果的に「調剤薬局銀座」となったといえよう。

写真3 八事日赤(平成25年9月撮影)

✳ 門前には薬局ではなく「研修センター」として場所を確保

 

写真4 八事日赤正門前の薬局(平成28年8月撮影)

✳ 写真3の研修センターが薬局としてオープン

写真5 八事日赤の前(国道を挟んだ正面、平成25年9月撮影

✳ 空き地とマンション1階の空き部屋が目立つ。 

  

写真6 八事日赤の前(院外処方せん発行後、平成28年8月撮影

✳ 2軒の薬局。写真4では崖になっているところに新しいビルができている。工事中の囲いは、もう1軒の薬局建築中。 

 

八事日赤前門前薬局

  1. 院外処方せんを出す前には、病院正面から少し離れた場所に薬局が1軒存在するだけであった(A薬局)。この薬局は、一般用医薬品の備蓄も多く、制度化される以前から地域住民の血圧や血糖値などの検査も行い、NHKの番組で紹介されたこともある地域に根ざした薬局である。
  2. B薬局は東海・北陸・関西を中心に展開する薬局チェーンであり、B①とB②とでは店舗名は異なっている。B①は、以前から研修センターとして病院正門に接するところにビルを保有していたが、現在は薬局として調剤業務を行っている。B②は病院からやや離れたところに位置しており。民間一次利用駐車場に隣接している。
  3.  C薬局は、全国展開薬局チェーンであり、C①、C②はすでに開局しているが、C③は現在建設中である(緑星)。また、C④(図では青星で表示)は市営地下鉄駅構内に出店している。なお、市営地下鉄構内の薬局出店は、平成25年に名古屋市交通局が新たな資金調達策として実施したものとされ、中村日赤駅、いりなか駅、八事日赤駅の3駅について「3つセットで借りる」ことを条件に落札したとされる(平成25年5月24日RISファックス)。事実、この3駅の構内については、C社薬局が出店している。
  4. D薬局は、愛知県内のみに出店しているチェーン薬局であり、18番目の店舗になる。
  5. E薬局は、名古屋市内のみに5店舗を展開するチェーン薬局である。

  

図1 八事日赤前の薬局群

 国道と病院と同じ側には以前から研修センターとしてビルを保有していたB①のみである。

C③は工事中、C④は地下鉄駅構内にある。

地図はGoogle MAPより作成。

 

処方せん受付状況

八事日赤側が、薬局ごとの処方せん取り扱い状況を集計して、病院近隣の薬局に報告している。

それによると、7月分の院外処方せんの発行状況は、一般が以来のみで11,589枚(全体の80.4%、院内処方が2,822枚、19.6%)であり、救急外来も含めると全体の72.9%(救急を含めた院内処方が4,300枚、27.1%)であった。

処方せんの行き先は、上記の門前で調剤を受けたものが6,137枚(53%)であり、門前以外が5,452枚(47%)であった。

門前8店舗の取り扱い状況は、B①薬局49.3%と、全体のほぼ半分の処方を受け付けており、以前からのビルの保有や地理的(病院と国道の同じ側)な優位さが推察される。

次いでC④薬局(地下鉄駅構内店舗)15.8%であり、地下鉄利用者からの利便性が示されているようである。

A、D、E薬局は地理的に不利な立場にあることが否めない。B②薬局は、病院正門からやや離れているにもかかわらず「健闘」しているといえよう。病院駐車場が満車で使えない場合、民間一次利用駐車場を使う患者が集まっていることによるのかもしれない。

 図2 薬局店舗別 処方せん扱い状況(平成28年7月分)


八事日赤院外処方せん発行に対する薬剤師会の対応

愛知県薬剤師会への非公式インタビューによると、八事日赤側は、隣接する5つの区薬剤師会と会合を持っていたようであるが、地元昭和区薬剤師会の動きも悪く、最終的には名古屋市薬が病院へロビー活動をしたようである。

結果的には、名古屋市薬がファックスカウンターを設置したとされる。しかしながら、ファックスカウンターを通らない患者も多く、「かかりつけ」へ行ったのに、薬が揃わなかったという苦情もあったとされる。

上田薬剤師会の取り組み

余談ながら、上田薬剤師会における院外処方せん発行への対応も見て、八事日赤の事例と比較してみたい。上田薬剤師会は医薬分業モデル地域として全国から注目されている。

上田薬剤師会管轄内(上田小県地域)にある丸子中央病院が平成25年8月の新築移転に伴い、全面院外処方へと切り替えることになった。

上田薬剤師会では、移転前から病院経営者との度重なる会合を持ち、院外処方せんの受入れ体制について病院・薬剤師会相互の理解を深め、対応について協議した。

具体的には、病院からの依頼で、初めて院外処方せんを手にする患者や、薬局への院外処方せんファックス送信を希望する患者に対して、会員がボランティアとしてロビーに立ち、院外処方せんの意義、メリット、かかりつけ薬剤師・薬局の役割等、ファックス送信機の利用の意義、使用方法などを丁寧に説明するなど、約2カ月間の活動を行った。

処方せんファックスには、薬剤師会会員薬局以外のファックス番号も登録されており、電話代などのランニングコストは病院側の負担である。病院移転当初は2軒あった門前薬局を希望する患者についても同様の手伝いをしてきた。

その結果、月間4,000枚以上を発行する処方せんのほとんどは、上田小県地域の各薬局へ拡散した。そのため、2軒あった門前のうち、病院により近い薬局1軒が27年夏に閉店することにもなっている。

 

写真7 丸子中央病院

✳ 周辺に薬局は見当たらない。歩いて5分ほどのところに1軒だけ残っている。 

 

おわりに

 

平成28年度調剤報酬改定では、門前やチェーン薬局の基本料引き下げが行われ、かかりつけ薬局・薬剤師への評価が新たに設定されるなど、地域でのかかりつけ薬局機能の確立が目指されている。

また、地域包括ケアシステムの具体化が議論される中、保険薬局が地域包括ケアにどのように参加するかも大きな課題である。

こうした議論の中でも、大病院が院外処方せんに移行することにより、調剤薬局銀座が誕生している。

個々の薬局をみると、一般用医薬品在庫の少なさ、土日・祝日休業など、門前特有での営業方針も見えてくる。八事は閑静な住宅地でもあり、そこで生活している住民も少なくないと思われる(筆者は、八事にも近い昭和区在住であったが)。

八事日赤前の薬局を見ると、古くから開局している薬局(A)は、一般用医薬品から介護用品、医療材料などの在庫も多く、本来求められる地域薬局の機能を有しているが、他の店舗については、今後、どのような経営方針を示していくのであろうか。

1つの企業が複数の店舗を開設していることも特徴的であると感ずる(この点は、他の地域の大病院門前でもみられる)。

店舗を分けることで1店舗あたりの処方せん枚数を減らしたり、店舗間で在庫を融通しあうことができることで調剤報酬上のメリットもあるのであろう。

また、院外処方せん発行に当たっては、地域の薬剤師会が受け入れ態勢を構築する必要があるが、薬剤師会の意識や能力の向上も必要なことと感じた。

名古屋を離れて2年が経ち、地域薬局機能へのシフトの困難さも感じた次第である。 

※ 本稿は各企業の経営方針などをヒアリングしたものではなく、筆者個人の意見である


 

 

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