概要
一般社団法人上田薬剤師会(会長 飯島康典)は、8月2日にオーストラリア薬剤師会Pharmaceutical Society of Australia: PSAと友好協定(Strategic Alliance)の延長契約を締結した。上田薬剤師会は、平成24年10月にPSAと友好協定を締結していたが、今回、新たな3年間の友好協定を継続することとなった。
今回の契約では、PSA側は最高経営責任者(CEO)であるランス・エマーソン博士Dr. Lance Emersonを契約者とし、上田薬剤師会側は、会長 飯島康典、日豪学術交流委員 飯島裕也のほか、東京理科大学経営学部坂巻弘之教授がアドバイザーとして参加した。
友好協定調印の背景として、両組織がともに、薬剤師の専門職としての知識や地位向上に努力していることがあり、両薬剤師会の継続的な協力関係のもとで双方が目標を共有し、組織の発展と会員薬剤師の知識向上を通して、住民の健康増進に寄与することが期待される。
上田薬剤師会では、過去4年にわたり、PSAと、
- 軽度の身体不調とOTC医薬品供給、
- 薬剤レビューMedication Review、
- 覆面調査、
- 在宅薬剤レビューHome Medication Review: HMR、
- 認知症
今後3年間については、両者で実施する具体的な事業計画を、年内をめどに作成する予定である。
オーストラリア薬剤師会Pharmaceutical Society of Australia: PSAについて
オーストラリアは英国と同様で、基本的に一般的財源で運営される医療制度である。オーストラリアでは4年間の薬剤師教育を受けた後、一年間のインターンシップ・プログラムを受け、その後、筆記と口述試験に合格し、オーストラリア薬局委員会(Pharmacy Board of Australia)から認定されることにより、薬剤師として働くことができる。ただし、年間で40単位の生涯薬学教育 (Continuing Professional Development: CPD)を維持する必要がある。
PSAは、オーストラリアにおける唯一の薬剤師の職能団体である。PSAのもとに病院勤務薬剤師の下部組織などもある。PSAでは、全国の大学薬学部などとも協力し合いながら、薬剤師の職能向上やそのための教育、薬剤師業務の評価などを行っている。
また、薬局経営者の団体としてPharmacy Guild of Australia: PGAもあり、日本でいう調剤報酬の交渉などを担っている。薬剤師の報酬に関しては、PGAと連邦政府との間で5年後との契約により規定され、地域薬局協定(Community Pharmacy Agreement: CPA)と呼ばれており、現在は、2015~2020年の第6次協定6CPAである。
PSAの活動は以下のような特徴があり、わが国でも学ぶ点が多いと考えられる。
- 職能団体として、全国一律の職能開発をしているとともに、テクニシャンやアシスタントなどについても管轄していること。
- 薬局や薬剤師スキルの向上について、国とともに明確な方針を共有し、特定の薬局サービスの導入にあたっては、医学・薬学的、経済的成果を研究し、エビデンスに基づく報酬の仕組みを導入している。
- 特定の薬局サービスの導入においては、体系化された薬剤師教育の参加を義務付け、認定を受けた薬剤師のみがサービス提供を行っている。
薬剤レビューについて
オーストラリアだけでなく、欧州諸国でも薬剤師の通常の服薬指導は、医薬品流通過程の薬局マージンに包括されることが一般的である。わが国の薬剤服用歴管理指導料で規定されているような、副作用や残薬チェックなどは、基本業務の中に包含され、別途指導料を算定できる国は少ない。英国やオーストラリアでは、高度な薬剤師サービスについて評価されている点に特徴がある。
そのなかで、薬剤レビューMedication Reviewは、オーストラリアにおいて実施されている高度な薬剤師サービスの基本的(かつ代表的)なものであり、通常、患者宅で実施されることから在宅薬剤レビューHome Medication Review: HMRとされており、2000年7月からスタートした第3次協定3CPAから導入されている。実施できる薬剤師は100時間以上の研修を受け認定を受けたコンサルタント薬剤師に限られる。
また、対象となる患者要件も定められており、医師の指示により認定を受けた薬剤師により実施される。医師、薬剤師それぞれに対してフィーが支払われるが原則として年2回が上限となっている。
具体的な対象者としては、
①高齢者、
②コミュニケーション、リテラシー障害など、
③混乱、抑うつ状態、精神疾患などの精神状態に問題のあるもの、
④視覚または聴覚障害など、
⑤関節炎、嚥下障害などの身体的問題のあるもの、
⑥自宅療養患者や直近に転倒の経験のある患者、
⑦その他となっている。
薬剤レビューでは、通常の指導と異なり30分から1時間以上の時間をかけ、薬剤に関連し、対象者の生活面も含めたすべての問題を洗い出し、問題解決のための提案を文書で作成される。
オーストラリアにおける健康サポート薬局 Health Destination Pharmacyについて
オーストラリアでは、薬剤師数の増加から、薬剤師サービス範囲の拡大とともに質の向上も求められてきた。その一つとして一般用医薬品供給における質の高いOTCカウンセリングが行われてきた。さらに、数年前から「安売り薬局」の台頭が問題視されるようになり、地域薬局の経営の安定化も求められていた。こうした背景をもとに、PSAが導入したものが「Health Destination Pharmacy・・健康を最終目標にする薬局」である。
Health Destination Pharmacyは、地域住民個々の健康ニーズに合わせて健康に関する相談を受けるとともに、必要な一般用医薬品の品揃えも検討する。
PSAは、薬剤師の一般消費者とのコミュニケーションスキル、消費者へのコーチングスキル、消費者への健康顧としての役割(health advisory role)に加え、薬局の収益最大化のための方策などについて研修を提供する。また、研修を通して、自らの薬局の地域でのベンチマークなどについても分析する。
Health Destination Pharmacyについての実証的パイロット研究は2013年に全国の14薬局において実施した。その結果、9ヶ月間で純利益が平均79千ドル増加(薬局によって24千から163千ドルの増加)した。そのほかの成果は以下の通り。
- 健康顧問としての薬剤師の関与・・20%増加
- 顧客一人当たり売上げ・・18%増加
- 臨床介入件数・・240%増加/など
Health Destination Pharmacyを標榜するためには、年18千ドルの登録料をPSAに支払う。登録された薬局は、グルーンクロスを表示できるが、表示しなくともよい。
上田薬剤師会とオーストラリア薬剤師会との友好協定概要
背景
上田薬剤師会とオーストラリア薬剤師会(PSA)の目的にはいくつかの明らかな類似点がある。両会とも政治的な偏りがなく、各々の会員薬剤師の職業的利益および志を代表する組織である。
- 会員の成功と消費者の健康に向けた取り組みを進めるにあたり、両薬剤師会が協力、連携することで、相互に利益がもたらされ、より良い成果が得られる可能性がある。
- 上田薬剤師会とPSAの両組織の活動の要は会員との関係にある。医薬品の適正利用、消費者の健康転帰など、薬剤師の役割を高めるために薬剤師会が持続的なサービスを提供することができれば、会員であることの価値が高まり、新会員の誘致につながる。
- 上田薬剤師会とPSAは、友好協定の目的、目標、運用を詳述した拘束力のない覚書を交わすことに合意した。
目的
- 本覚書の目的は、上田薬剤師会とPSAの間で、両組織の会員を支える活動をサポートするための、コミットメントと協力の枠組みを確立することである。
- この覚書は、上田薬剤師会とPSAが、本覚書に記述されている定められた条件に従い、協定を締結する意向を示したものである。しかしながら、両当事者は本覚書が戦略パートナーシップと提携(友好協定)の意向の表明であるにすぎず、正式な契約を締結した際に発生する拘束力や効力を持たないこと、また正式契約は本覚書の運用規定に概ね沿ったものになることを理解し、合意する。
目標
- 患者の転帰を向上させるプライマリ・へスルケアチームの一員としての薬剤師の職業的役割を、認識、支援、促進する戦略提携(友好協定)を構築し、発展させる。
- 上田薬剤師会とPSAの間のコミュニケーション、連絡、連携、協力を強化する。
- いずれかもしくは両方の組織に役立つ製品やサービスを特定し、将来的な商業ライセンス契約の可能性などを検討する。
- 各薬剤師会の主要イベントや会議における共同の企画、ならびにその推進。
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