先に発生した熊本県を中心にした震災では、多くの死傷者や壊滅的な被害を及ぼすにいたった。
本レポートでは、4月24~29日の期間、熊本県上益城郡益城町へ赴き取り組んだ現地での活動状況を詳報する。
派遣先までの交通手段:長野県上田市より新幹線で東京へ。東京より福岡までを空路で移動し、福岡より車で熊本市内へ入る。
熊本県薬剤師館に集合し、薬剤師会対策本部より状況報告を経て、派遣先を告げられた後に車で移動(派遣先:益城町保健福祉センター『はぴねす』) 派遣先の背景・状況:14日の地震後、益城町役場が益城地域の対策本部であったが、16日の本震にて役場も大きなダメージを負ったことから、益城町保健福祉センターへ移動となる。
本センターはハブの役割を担っており、近隣避難所へのサポートにも回る役割を持つ。電気は通じており、水道も序々にではあるが復旧している状況下、約600人が避難生活を余儀なくされていた。
災害対策チーム
自衛隊、警察、行政、AMDA、日本赤十字社、DMAT、JMAT、DPAT、JRAT、歯科医師、看護師、薬剤師、栄養師、保健師、ボランティアなど。
注:・AMDA(Association of Medical Doctors of Asia)災害や紛争発生時、医療・保健衛生分野を中心に緊急人道支援を行う団体・DMAT(Disaster Medical Assistance Team)災害急性期に活動できる機動性を持ったトレーニングを受けた医療チーム・JMAT(Japan Medical Association Team) 日本医師会により組織される災害医療チーム・DPAT(Disaster Psychiatric Assistance Team)都道府県等で組織される専門的な研修・訓練を受けた災害派遣精神医療チーム・JRAT(Japan Rehabilitation Assistance Team)大規模災害に備えたリハビリテーション支援チーム。
現地での主な活動
1チーム3~4人で構成され、各現場に対し1日に4~5チームが駐在するように派遣される。
活動内容は①避難所での診療における処方せん調剤(大分県薬剤師会モバイルファーマシー)②薬剤師による避難所巡回③薬剤師が不在のJMATチームへ同行④保健師の避難所巡回への同行⑤施設内の生活環境・衛生環境整備⑥OTC医薬品健康相談など。
避難所での処方せん調剤:派遣先施設では診察室が3つ用意されており、2つはJMATなどの医師が診察(内科)、1つは自衛隊の診察(外科)となっている。夜間も対応しており24時間体制が敷かれていることから、夜間も薬剤師が駐在していた。
われわれが到着した頃は、急性期から亜急性期への狭間のような状態であったため、4月24日までは処方せん枚数は120枚くらいだったが、25日以降は40~50枚位に落ち着いていた。
落ち着きにともない25日以降、薬剤師会による夜間対応は解除となり、24時間対応は自衛隊が受け持つこととなった。
在庫医療用医薬品の種類も限られていたため、薬剤師の提案によって代替薬の選択を実施。「お薬手帳」を持つ避難者は多く、治療薬の選択や飲み合わせの確認をスムーズに行うことができた。なお、緊急用処方のため処方日数は3日程度であった。
災害用薬袋 : 表面に内服用の薬名・用法を記載し、裏面に外用薬の薬名・用法を記載する。薬袋自体が薬歴として機能するよう、再利用できる設計
災害処方せん:左側の欄に医師が記入し、処方薬の在庫がなければ右側の欄に薬剤師が代替薬を記入する(自衛隊の処方せんとは別形式であった)
薬剤師による避難所巡回
薬剤師が避難所内を巡回し、薬や体調相談、OTCを配布するなどして避難者の体調に目を配っていた。「定期の薬は足りているか」「避難所での生活によって起こった体調の変化で困ったことはないか」「医療班や病院の受診を受けているか」などの確認等を行う。
巡回で気付いたことは、避難所生活によってビタミン不足(食事の制限などが行われるため)となり口内炎、運動不足や食物繊維不足での便秘や痔、目の乾き、硬い床での寝泊りによる背中や肩などの痛みなどの愁訴が多かったことだ。
医療班が行き届いてない避難所もあり、薬剤師が巡回することで病院へ受診を促したり(益城町周辺の医療機関、薬局は序々にではあるが通常営業に戻り始めていた)、OTC医薬品で対応できる症状については薬剤師でカバーすることができた。
なお、震災前後で増えた新しい薬のコンプライアンスが悪かったため、コンプライアンスや飲み合わせの確認も行った。
留意事項
わずかな情報で現場の状況を把握し、今後の変化を少し先読みすることが必要である。また、避難者は食事や運動や休息など日頃と違う環境下で、さまざまな体調の変化が起きている。それらの背景を踏まえた現状での最適な服薬方法や養生方法を伝えるように注意した。
災害時では平等配布を念頭に置きながら、OTC医薬品を配布するべきである(逆説的にいうと、平等に配布できないのなら配布すべきではない)。OTC医薬品も数が限られている場合、箱を開封してPTPシートで各々へ渡す。この際に、PTPシートに用法が記載されていると良いかもしれない(現地ではノートの紙に用法を書いてお渡しした)。
薬剤師が不在のJMATチームへの同行
JMATが各避難所を巡回し、医師による診察を行っていたが、JMATのチームによっては薬剤師が不在なこともあるので、そのチームへ薬剤師が派遣された。医師が治療薬を選択するがMPに在庫がない場合も多く、その場で薬剤師が代替薬を提案していた。例えば、降圧剤の種類も限られていることから同じカテゴリーへの変更など。
派遣された医師も総合診療医(ジェネラリスト)がすべてではないため、薬剤師の幅広い薬に関する知識が治療の一助となった。そのような経緯が医師からの信頼、そして感謝の言葉となって現れた。
保健師の避難所巡回への同行
保健師が各避難所(筆者は益城商工会『いこいの里』)を巡回して、避難者の把握や家族構成、持病、栄養状態などを聞いて回っていた。
そこに薬剤師が同行して医療用医薬品、OTC医薬品を提供したり、衛生に関する情報などの情報提供を行った。
例えば、「お薬手帳はないが、一包化された薬があり何の薬を服用しているかを判断」したり、医師への受診勧奨、さらに水道が不通の避難所では感染症対策として衛生環境の整備(消毒液設置、手指消毒を促すポスター作成)などを行った。
保健師からは「薬剤師の同行で非常に助かった」という謝意も数多く頂戴した。
一方、保健師のきめ細やかな気配りや言葉使いによって、避難所の方々の情報収集や医療班への連携がスムーズに行われた。これに関しては大変勉強になり、また薬剤師も見習うべき点として心に残った。
筆者が持参したOTC医薬品等の一例
ベンザブロックS、ベンザブロックLプラス、ツムラ葛根湯(液剤)、カコナール、パブロン鼻炎速溶錠、セルベール整胃錠、新セルベール整胃細粒、バファリン、EVE、コーラック、イチジク浣腸(30g)、ビオスリーH 、イストロン整腸錠プラス、アルガードクールEX、マイティアCL、ラスター抗菌EX 、ロートこどもソフト、リップクリーム、トピックAZトローチ、サージカルテープきれるん、やさしい傷あてパッド、BAND-AID、眼帯セット、新NIDファーマシーID、アルガードマスク、タフデント、OS-1ゼリー。
施設内の生活環境・衛生環境整備:現地の感染症チームからの提案で、ノロウィルスの感染予防として次亜塩素酸ナトリウム消毒液の作製を行った。
ハイターから水で希釈して0.025%の手指用消毒液と0.1%の嘔吐物処理用消毒液を作製した。同時に、各避難所へ消毒の徹底を周知した(ボランティアの方々が避難者へ消毒を促したり、靴裏への消毒を行ったりして下さった)。
幸いにも、われわれの任務期間に派遣先施設内にてノロウィルス感染が報告されることはなかったが、別の施設ではインフルエンザ感染者が出たという報告があった。
また、避難所内のCO2の測定を朝7時半と夜の7時半に実施した。
測定ポイントは最も多く避難者がいるホールと空気がこもりやすい廊下、人の往来が多い対策本部がある部屋の3箇所で行い、定期的な換気を促すようにした。これには学校薬剤師として環境測定を行ってきた知識が非常に役にたった。
OTC医薬品健康相談
モバイルファーマシーの側ではOTC医薬品の在庫を確保しており、健康相談で訪れる避難所の方々へOTC医薬品の提供や受診勧奨を行った。
1番多かったのは、風邪の初期症状と思われる喉の痛みや咳、鼻水などであった。咳止め薬はジヒドロコデイン酸配合のものしかなく、便秘になりがちな避難所生活の中で副作用で便秘になる咳止め薬を提供するのに躊躇があった。
限られたOTC医薬品であるため仕方がないが、災害時における必要OTC医薬品をリスト化しておくと混乱や今回のような事態を避けることができると考える。
災害時の栄養補給としてビタミン剤(アリナミンEX、ビタミンCなど)は大変有益であった。OTC医薬品の品揃えも薬剤師たちが各自提案して必要な品を発注していた。
総括 チーム編成について
可能であれば、同支部か顔見知りで構成されたチームの方が意思疎通ができており、統率がとりやすい。また、ベテラン・中堅・若手で構成すれば何かとスムーズに役割分担ができると感じた。
チーム内に現地の土地勘があるメンバーがいることが望ましい。
服装について筆者たちは、作業着・安全靴を着用した。その上に所属が表示されたベストを着用。ベストには前面側に大きなポケットがついているものがベターである(できるだけ両手は塞ぎたくないので、ボールペン、はさみ、ノート、軽食などたくさん入れられるようなもの)。
また、前面の胸部分と背面に大きく「薬剤師」と表示した方が一目で何者かわかるため望ましい。
モバイルファーマシー(MP)について
MPのメリットとして自己完結型の薬局が可能である点が挙げられる。
災害時では常に「自己完結(準備、自分たちの衣食住、片付けまですべて自分たちで済ませる)」が求められる。避難施設内での薬局を展開する場合、どうしても医薬品や分包機などで避難スペースが取られ、MPでは即時移動も可能であることから利便性に長けている。
MPには「トイレ」「寝泊りスペース」「シャワー」も完備されている。
災害時の連絡伝達について
災害直後は電気が不通であり、復帰するまで連絡交換に関してはfacebookやLINEでの伝達が役にたったという話を聞いた。災害派遣薬剤師のための情報共有HPサイトがあってもいいのかもしれない。
現地の状況が刻々と変わるので情報の錯綜を招くという懸念はあるかもしれないが、例え情報鮮度は落ちたとしても、現地の情報を事前にある程度把握することは準備に活かせたり、現地での仕事ある程度具体化できるので有益と考える。
災害派遣薬剤師の素質について:災害派遣薬剤師として求められる素質としては、薬学的知識(医療用医薬品だけでなくOTC医薬品の知識は必須)はもちろんのこと、衛生環境、感染症対策、栄養面、介護など幅広い知識が必要である。
また、繋げる能力(どこのチームへ連絡したらいいかなど)も長けていなければならない。
刻々と状況が変わるため、柔軟に対応できる臨機応変さも兼ね備えていかなければならない。
現地では能動的に動いている薬剤師がほとんどであった。全国から集まった薬剤師たちがJMATや保健師に同行したり、各避難所へ巡回を行ったりした。その際に、被災者の方々からはもちろんのこと、医師や保健師などから「薬剤師がいてくれて良かった」という声を頂いたが、その時は目の前のことで手いっぱいであったのが正直なところである。
今回の1番印象的なことは、全国より集まった即席の多職種チームが素晴らしいチーム医療を発揮していたことである。誰も当たり前すぎて口には出さないが、みな「被災者のために」という行動原理があったのは間違いない。
追記
筆者は熊本大学薬学部出身で、学生時代に熊本には大変お世話になり熊本が第二の故郷といっても過言ではありません。
その熊本が未曾有の地震という天災に見舞われるとは思いもよりませんでした。
このように、熊本には個人的に特別な想い入れもあり、本件の派遣薬剤師の話があった際には、恩返しといった意味でも何としてでも支援したく手をあげました。
熊本・大分にはこれからも継続的な支援が必要です。熊本・大分の1日でも早い復興と被災者の心の復帰を願っております。
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