グローバルな視点からの大学教育の評価
城西国際大学薬学部 山村重雄
前回は、教育評価の質の評価について紹介しました。
薬学教育の質評価は、医療の評価でも用いられる「Structure-Process-Outcomeモデル」に、背景(Context)とOutcomeが社会に与える影響(Impact)の5つの段階で評価するとよいと考えられています。これらの5本の柱を支える土台となるのが、サイエンス、実務、倫理からなるCompetencyです。
今回は、グローバルな視点では、薬学教育をどのように評価しているかをご紹介したいと思います(日本では、各薬科大学の教育内容の評価は「薬学教育評価機構」という法人が行っています)。
実際に大学で教育を受けているときは、教育の質なんて考えたことはあまりないと思います。今では、ほとんどの大学で授業評価が行われ、その結果が公表されていると思います。でも、実際の評価は「先生の講義はわかりやすい」とか「声が小さくて聞こえづらい」といった感想に近い評価になっているのではないでしょうか。とはいえ、学生の評価は教育の質を上げるためには必要不可欠な要素と考えられています。
私が20年ほど前にカナダの大学に留学していたときに、お世話になった教授から「日本では学生による授業評価はどうやっているか?」との質問を受けました。その頃の私は「学生の評価なんて役に立たない」「せいぜい、単位を取りやすいとか難しいといった情報だけしか得られない」と思っていました。すると、その教授は、その大学でいかに授業評価が教育の質の向上に寄与しているかを示した論文をくれました。その論文を読んでも、まだ「それはカナダの学生の話で日本の学生には無理」と思っていました。でも今は、世界的に学生による評価は教育の質を上げるために不可欠になっています。
薬学教育の質評価は、Context -Structure-Process-Outcome- Impactモデルに従って、それぞれの段階で評価されます。もちろん、各国で事情も違いますし、一概に評価点を示すことはできませんが、FIPでは例として評価視点を示しています。
ここでは、ProcessとOutcomeの中から評価する指標(Indicator)の中から、わかりやすそうな内容を紹介したいと思います。
評価は、「できていない」、「大幅な改善が必要である」、「少し改善が必要である」、「できている」の4段階で行われます。この点は日本とあまり変わりはありません。なお、ここに挙げた指標以外にも多くの指標が例示されていますので、興味のある人が読んでみてください。
これらは、大学が評価される視点ですが、学生にも大きくかかわっていると感じてもらえれば幸いです。
特にOutcome評価でコンピテンシーという用語がよく出てきます。ここでのコンピテンシーは、薬剤師として働くことができるコンピテンシーではなく、薬剤師として働き始めることができるコンピテンシーであることに注意してください。
これまでに説明しましたように、コンピテンシーは薬学教育の中では、一つの能力や資格ではなく、知識、スキル、態度、行動、倫理観などを含む広い概念として使われます。経験を積むことによって到達すべきコンピテンシーのレベルは異なることにも注意してください。卒業したばかりの薬剤師と10年の経験のある薬剤師では当然発揮できるコンピテンシーは違ってきます。
教育の質評価の指標から見えてくるのは、薬学教育の質は、学生が卒業したときに薬剤師として働き始めることができるのに必要なコンピテンシーを与えることができたかで評価されていることがわかります。日本では、国家試験に合格すれば、薬剤師として働き始めることができるのに必要は能力、資質があると判断されます。でも、グローバルな視点では、薬学教育の質が、薬剤師の能力、資質を担保していると考えられます。
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