新連載「これから漢方を始めるあなたへ」～漢方を身近に考える方法～
本連載を読んでいただく皆さまには、漢方に対して下記のようなイメージがある方も多いのではないでしょうか？
・漢方に興味はあるが、即効性がないので勧めづらい
・証とか言われてもよく分からない
・患者さんから深く聞かれると答えに詰まる
・なんとなくマニアックな感じが…
しかし、私にはこのような感覚はありません。
今回は、なぜ私がそのような考えを持つに至ったかについて、自己紹介を兼ねて説明させていただきます。
私が経営している薬局は、祖父の代から90年続く地域密着型の薬局です。祖父が漢方を薬局に持ち込み、また、父が鍼灸師だったこともあって生まれた時から漢方が身近にありました。
例えば、朝食の横には「小建中湯」があり、「朝ごはんは食べなくてもいいからこれ飲んで行きなさい！」という具合です。
落ち着きがなかったり、癇癪を起こしていると「抑肝散加陳皮半夏飲ませるぞ！」…普通のご家庭で、このような会話はあまり（ほとんど）見ないことでしょう。
風邪をひいたら甘草のドリンク、汗をかいていなくて脈が浮いているからと麻黄湯、風邪の後期に「食欲がない」と言えば「舌を出してみなさい」と言われて小柴胡湯、夏になったら補中益気湯、夏の旅行に行く時荷物の中身ももちろんたくさんの漢方薬。
薬を飲む時も水など使いません。口の中で溶かして味わいながら飲み込む癖がつきました。
このような（ある意味異常？）家庭環境ですが、おかげで丈夫に育つと共に漢方が空気のような存在になりました。
薬剤師を目指して薬学部で勉強をしている時も、理論は分からないですが、薬の名前だけは「なんか聞いたことあるものばかり」。それどころか飲んだことがあるものが多くて、なんとなく味がわかる始末。
このような環境なので、漢方薬を患者さんにお勧めするということに対しても「初めは自分の体験をお話しする」ところから始めました。
皆さんは漢方の専門書をお読みになったことがありますでしょうか？
実は、東洋医学の専門書は西洋医学の本と大きな違いがあります。
西洋医学はもちろんエビデンス中心。東洋医学の専門書は昔の先生の診療録です。
簡単に言うと、「こんな感じの人にこの薬を投与したらうまくいったよ」という感じです。
こういう経験の積み重ねを繰り返して、段々と薬の使い方を解明していくのが漢方であると私は理解しています。
これを口伝（くでん）と言います。
漢方の面白いところはこの「口伝」の部分で、実は非常に自由度が高いのです。
このように考えると少し気が楽になりませんか？「まずは患者さんから状況をじっくりとお聞きする。それによって手に入れた情報を考えて、納得するまで説明をする」。
このようなことを書くと非科学的だと思われてしまうかもしれませんが、漢方薬は私の経験上、薬を飲んでもらう前にどのような話ができるかによっても治療効果が変わります。患者さんとの信頼関係、納得して薬を服用できることが効果に直結するのが漢方薬です。
次回からは、「実際の漢方薬の選び方」について自分の体験について書いていきたいと思います。
過去の大先生や自分の先祖から受け継いだ口伝をみなさんに口伝したいと思います。
私の体験が「これからOTCの漢方を販売してみたい」「患者さんが医療機関を受診したけど解決できなかった症状を薬局で何とかしたい」と思っている先生方に、少しでも参考になれば幸いです。
読者コメント